日本では2010年度の初日になる今日は、趣向を変えて書評を行いたい。

我々プログラマは「コメントはあくまで読みやすくするためのもの」とか「ソースが仕様書」とか言いがちである。しかしそれは明確に間違いである。
この書籍「コメントからの伝言」は、ソースコードにおける、コメントの有用性に着目し、その知られざる効能について克明に示している。これを読めばあなたもソースコードにおけるコメントの重要性を必ずや理解できるであろう。

第一章 驚くべき「ありがとう」の効能 ~ 性能試験


世界中の様々なプログラムのコメントに着目し、「ありがとう」あるいはそれに類する単語が多く含まれるプログラムとそうでないプログラム、あるいは罵り言葉の多く含まれたプログラムの比較を詳細に行っている。この比較結果が示す傾向は気持ちよいぐらいで、バグの少なさ、バイナリサイズの小ささ、メモリフットプリントや性能など、すべての項目で「ありがとう」の多いコードが優れていることは明白である。

圧巻なのはFreeBSDでのネットワークドライバ試験。罵声にあふれたRTL8139向けドライバが圧倒的な性能問題を抱えていることが分かる。また、プログラムによって自動的に付加された「ありがとう」については、全く影響をもたらさないことも検証されている。プログラムを実際に書く人間の思いをコメントで表明することにより、バイナリはいっそう輝くのだ。

第二章 驚くべき「ありがとう」の効能 ~ 内部構造と定性的試験


詳細分析は圧巻であり、に着目し、論理的に同じはずのソースコードでも、生成されるバイナリコードやgccなどの構文木のような内部表現などがコメントによってどのように変化するかを図示している。これも一目瞭然であり、美しいコメントが構文木に与える幾何学的美しさに圧倒される。これは残念ながら言葉で言い表せるようなちっぽけなものではない。是非本当に本を買って、見ていただきたい。

またMP3エンコーダの性能比較も大変興味深かった。lame派生のプログラムに人間の手で様々な種類のコメントを付与したり削除したりしたものを12個用意し、 その音質を比較している。生成されたmp3ファイルは、12個ともバイナリレベルで一致しているにもかかわらず明らかに音質が変化するのが感じられた。

すべてのありがとうを削除した3番などは、500KHz近傍の不快な高周波成分が多く、実際聞くに堪えない。多くのクラシック愛好者にはgccへの愛をコメントに織り込んだ9番が奏でる甘ったるい感じにめろめろだろう。個人的には、ウィットに富んだだじゃれコメントを多数埋め込んだ11番が、音楽に刺激が出て良かった。

個人的には是非IBMのハードディスクと、東北電力の電気と組み合わせて聞きたい一品である。このエンコーダと、計測用のMP3ファイルは付属CD-ROMに納められている。

第三章 「ありがとう」コメントの力をを最大限に生かした会社経営法 ~ 儲かったよ、ありがとう!


この特性に着目した「ありがとう」を生かしたソフトウェア開発モデルについて考察している。ソフトハウス社長を務める著者が実践している方法であり、説得力がある。「お客様は神様であり、納品のために滅私奉公」「一緒に働く仲間のため、定時出勤、終電退社。休日返上で一緒に頑張る」「会社の目標のため、残業をつけなかったり低い給与で満足する」「終身雇用を信じよ」「働けなくなったら静かに会社を去る」「鬱は甘え」などの方法論が、いかにプログラムの「ありがとう」に結びつくか具体的な例を示している。
またそれが会社の高い利益率に結びつくことが良く理解できる。起業の際には是非参考にしたい。特に本性最後の
みんながつらい状況に耐えて「ありがとう」ということで私も儲かった。私もみんなに「ありがとう」と言いたい。

は至言ではないだろうか。

第4章 コメントが教える我々の未来 ~ 救済の時はもうそこまで来ている。


この技術のより広い援用のしかた、例えばバイナリからコメントを復元してありがとうの効用をソースが無くても計測する方法などの示唆に満ちた方法論が展開されている。第1章で「機械的に付与したコメントに効果が無い」と書いたが、ここではよりありがとうを付与したコメントジェネレーターにて限界を突破する可能性についても述べられ、一定の成功を納めているという話は大変心強い。

そして最後に述べられている、コメントの「ありがとう」がついには技術的特異点に達し、世界を幸福に満ちたかたちに塗り替えることが高らかに予言される。もう「ありがとう」は個人の努力ではない。全世界を統御する世界宗教である。「ありがとうコメント」万歳!!!

まとめ


と、このように本書はコピペプログラマ、疑似科学信奉者、ピュアオーディオ愛好者、社畜、悪徳経営者にカルト宗教の設立を考える人まで幅広く有用である。かならずやベストセラー間違いなしである。このような偉大な書籍を先に読めたことは大変な喜びである。

書籍「コメントからの伝言」は、2010年4月1日に民明書房より、前述の通りCD-ROM付きで予価嘘800円で刊行される。要注目である。