カテゴリ: The Netherlands

6月の総選挙の結果(オランダの総選挙に学んでみるを参照のこと)を受けて、ルッテ首相を首班とする連立政権が成立してしばらくたった。一言で集約すると、オランダの政治は急激な右傾化を果たした。

 

選挙後の組閣は毎回もめるらしいが今回も例外ではなく、7月のつもりが3ヶ月遅れという状態である。今回の政権は結局VVD(オランダ自民党)+CDA(キリスト教民主同盟)という右派少数連立政権に極右PVV(オランダ自由党)が閣外協力する形となった。予想された組み合わせの中では最も右派の政権である。

組閣の経緯としては、以下のような流れだった。

  1. まず最初にVVDはPVV躍進を受けてこのCDA+PVVという選択肢を考慮したがCDAが拒否
  2. 次にPvdA(労働党)+CDAは「これは(PvaA+CDA+αだった前回の連立政権と非常によく似た)敗者の連立だ」とPvdAが拒否
  3. 中庸的な+PvdA+いくつかの少数政党という「パープルプラス」左右連立政権が有力になったが、長引く交渉の末、社会保障問題で合意できず挫折
  4. 最後にCDA+PVVの右派政権で、PVVを閣内に入れるか閣外協力にするか、という2オプションに落ち着いたと

今回の組閣の面白いのは3つある。まず一つはオランダの特色とも言えた「パープル」左右連立政権ではなく、はっきりとした右派政権になったところ。2つめは躍進したにもかかわらずずいぶんと嫌われたPVVである。殆どの左派あるいは中道政党から連立を拒否され、CDAも結局閣内では合意できなかった。聞き及ぶところによるとCDA内部には未だにPVVと組むことについて批判があるらしい。

そして、3つめは閣外協力にしかならなかったにもかかわらず、PVVの主張がずいぶん受け入れられた内閣の方針である。

  • 緊縮財政。社会保障、外交、国連等への拠出の削減
  • 移民政策の厳格化、同化政策の強化、治安維持のため警察の増員
  • 寛容政策からの後退。ソフトドラッグや管理売春に対する規制強化

オランダ人は民族ジョークでは「ケチ」の役を受け持つが、「ケチ」つまり支出削減と、それにかこつけて諸権利等の厳格化をリンクさせる形でPVVは自分たちの主張を織り込むことに成功した。L.starはすでに何度も公言しているとおりPVV嫌いだが、この手際は敵ながらあっぱれであり、彼らには政治能力がちゃんとあると認めざるを得ない。

これは従来開放的な、そして貿易国として数百年の歴史を持つ国としてはかなり大きな路線変更である。いや、あるいはいつもプロテスタントやポルダーモデルのような時代の最先端を行っていた国家らしい最先端指向かもしれない。そしてPVVの台頭と内閣への事実上の関与は波紋を広げている。今月にはロッテルダムで反イスラムのデモがあり、今週末にもアムステルダムであるという話だ。

なにしろさっき行ったとおりL.starは極右嫌いなので、この政権に対しての評価はひとまず保留したい。本来問題にすべきは政治的スペクトルの左右ではなく、成果ではかるべきだから。しかし予想するならば、以下のような要素が考えられるだろう。

  • 国内世論はどうなるだろう。PVVは躍進したとはいえ、例えば都市では未だに左派が優勢であり、そうした中には「ウィルダースはただのレイシストだ」といった露骨な反感を示す人までいる。「寛容なオランダ人」というアイデンティティの崩壊の一歩を踏み出してしまうかもしれない。一方、バブルに浮かれていたように感じられた最近のオランダ人たちが、経済の引き締めにより昔らしい質実剛健な方向へ戻って、結束を深められるようになるかもしれない。
  • あるいは各種移民同化政策の強化は、主にモロッコ系移民を狙っているのだろうが、既存の優良な在住外国人(日本人含む)にも波及する問題である。これが治安の強化に役立つか、経済の衰退をもたらすかはやはり未知数である。
  • 外交的地はどうだろうか。排外主義色が強まった移民政策がEU内での孤立を深めたり、過激派だけでなくイスラム諸国まで敵に回すような可能性が指摘されている。テロ予告もすでに出ており未遂で逮捕された人もここ数ヶ月でいる。場合によっては治安のさらなる悪化が考えられる。
  • EUはすでに経済問題で結束にヒビが入りつつあり、そこにこのような右傾化した政権が台頭していくとというのはこれまた厳しい試練である。もちろんEUと表向きは友好的な関係を維持するだろうが、運が悪ければEUの存在意義をゆるがすほどの政治的な問題にもなり得る。
  • 上記のような懸念や期待は実はまやかしで、たいした成果も残さず早期崩壊というのも実は現実的なシナリオである。前政権も8年間で結局4回の崩壊を経験しているし、おそらく4年勤め上げることを期待してはいないだろう。

いずれにしても、この政策の過激な転換を果たした新政権の行く末は、日本の右派の人たちにとっても非常に注目すべきところだろう。いくつかの政策は実際にそういう人たちが主張するものであるし、どのような問題が発生してどう対処すべきか、そもそも果たして本当に考慮すべき問題だったのか、日本に適用するならどこに注意すべきか、というようなたくさんの点を学ぶことができる。

まあどんな政権がどの程度続くかはともかく、賽は投げられた。願わくば、オランダという国がどのような形で荒れこの試練を糧に成長し、世界にとって多少なりとも良くなることをしてくれることを、日本人としては期待しようではないか。

参考:オランダ・ハーグより / 春 具第255回 「69」

割と頻繁に言っていることだけど、ヨーロッパで感じるのは「うま味」が不足すると感じること。あらためてWikipediaで調べてみると、西洋では日本人の言う「うま味」を、長らく理解していなかったらしい、と言う記述があってびっくり。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%86%E3%81%BE%E5%91%B3

ただ、この文章だけを見て「ヨーロッパ人はうま味を知らない」というのは間違っている。概念こそ定着していないものの、実際には経験的に「うま味」なるものに近いものを知っている。うま味を引き出す料理が少なからずあることから、それを知ることが出来る。ただ、認識の違いはにより、東洋人がうま味を外部から添加する方法を確立されたのに対して、欧米では素材からにじみ出るものを大切にする形になったのだろうなぁと考えてみたりする。

端的に知ることが出来るのは、すき焼きでおなじみ薄切り肉。実は、ヨーロッパでは「あり得ないもの」と認識されている。技術がないはずはない。薄切りハム、ベーコン、ローストビーフなどは普通に売られているし普通に食べられている。にもかかわらず肉屋に頼んでもなかなか売ってくれなかったという。ある外国在住の日本人の知り合いから聞いた話だが、昔、肉屋に薄切りを頼もうとしたら「味が全部抜けてしまうからダメだ」と言われたそうな。彼らの信条にかかわるようなことらしい。

なるほど考えてみれば、煮込みによってうま味を凝縮し、あるいは煮汁ごと食べる文化圏においては、肉のうま味が飛んでしまいやすい薄切りは御法度であろう。じゃあ何故ハムやベーコンが薄く切って良いのかというと、あれらはうま味が濃縮されているのだ。ベーコンから出る出汁で美味しいスープが作れるし、そういうレシピも豊富にある。そもそもベーコンは薄切りもあるが、角切りも多い。

一方日本人は何故気にしないかというと、こういう時のうま味はダシとして鰹や昆布で別途取るからだ。中華の炒め物も、各種炒め物ソースがある。こういう状況では、固くなりやすい長時間の煮込みよりも火の通りやすい、食べやすい薄切りが好まれるのは当然とも言えよう。

そう考えると日本でよく売られている形だけ燻製にしたようなベーコンやハムはあくまで薄切り肉の延長であり、出汁の素、つまり鰹節のような扱いはあまり受けていないことに気づく。だからヨーロッパに来て「ベーコンうまい!生ハム最高!」と思う。いやまあ、日本人が理解しているのかどうかは分からない。単に技術やノウハウの問題でうま味が出ていないのかもしれない。

一方、日本的な出汁には大変苦労しますが、幸い日本食ブームなので、鰹節や昆布はアムステルダムのような大都市近郊なら比較的簡単に手に入る。ありがたいことだ。薄切り肉だって「SUKIYAKI用」として入手可能だ。逆だったら、つまりヨーロッパ人が日本に来るなら大変なのだろうな。こちらで主流のブロック肉や、美味しそうなベーコンは見たことがない。日本は確かに何でも美味しいものが食える素晴らしい国だけれども、無論あらゆるものがそろっているわけではない。まだまだ西洋に学ぶものは多いかも。

ベルギーから無事戻って来ました。。とりあえず「SPAでSPA」というべたなことをしたいがためにSPAへ。

途中AubelのVal Dieu修道院へよって地元のビールを楽しみつつ(※車なのでL.starは買っただけ)

ところが、その後ぐらいからずっと考えられないほどの大雪。日曜は世界一小さい町として知られるDurbuyによって帰ろうとするとこれまた大雪で立ち往生。午後4時に出たというのに、途中迂回とか大渋滞とかで、這々の体で帰り着いたら午後11時。

疲れたので生産的な記事はまた後日。

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