この数日のパソコン遠隔操作事件の進展とあっけない結果には驚くばかりであった。真犯人からというメールが出てきたことにはびっくりしたし、素早く鑑定結果が出たことには更にびっくりした。個人的にはこの後被疑者の行方がわからなくなった時点でほぼ勝負は決したと思ったが、いきなり自白、というのには目が飛びださんばかりだった。事実は小説より奇なり、とはまさにこういうことだろうか。
もちろん今のところは単に法定の外で語っただけに過ぎず、裁判としてはまだまだ先はある。しかし彼の「自白」によって浮かび上がった真実ほどはっきりしたものはなく、個人的には「ああ、終わった」という実感が似合う。弁護側関係者の人のブログのエントリにもそれが見て取れる。
今後の可能性としてもちろん「自白を第三者に強要された」とか「精神的に錯乱していた」とかという主張も不可能ではないが、正直今明るに見に出た以上のものはないのではなかろうか。
ここで登場するのは4種類の「人たち」である。
もちろん今となっては4.真犯人=1.だということは分かる。しかし弁護側の主張はほぼ一貫して「被告人はあくまで踏み台にすぎない」としている以上、「真犯人」を仮定せざるを得ないわけであるし、またそれはあの時点では十分蓋然性を持った意見であった。話がややこしくなるのがこの「真犯人」がどれほどの技量の人物かわからないため、スーパーハッカーによる完全犯罪で、被告人もまた被害者であることを否定出来ない点にある。
とはいえ、警察の対応に疑問符が付いている一方で、検察側の技術者は良い仕事をしたのは間違いない。まず争点として「被告人は何の関係もない人物である」というのは最初からなく、関係人物に絞り込むのに成功している。その上で、ファイルスラックまで調べあげて、実際にiesysがビルドされたマシンを特定するのに成功している。
正直言って、これを見たあとで「このマシンはiesysがビルドされた痕跡がある」というのを否定するのはかなり困難である。1年に及ぶ拘留期間というのも、このへんも含めた徹底的な解析にそれだけ時間をかけたということだろう。もちろん、それが意味するのは「被告人がビルドした」か「被告人のマシンを乗っ取った真犯人がビルドした」のどちらかである。
結局「スーパーハッカーなんかいなかった」という命題を後付で導入すれば、もちろん消去法で「このマシンを使って、C#でプログラムを書けた人」が犯人となるわけだ。しかし、情況証拠がどこまで重なっても、真犯人の可能性を消すことは出来ない。もしも自分でこの証明作業をしていたら、「たぶん被告人が犯人で間違いない、と思うのだが、証明できたというところまで辿りつけない」というところまでしかたどり着けなかったろう、と思う。ある意味では、今回の事件におけるホワイトハッカーの限界、というわけだ。肝心なところは今後の公判のために温存していたのかもしれませんが。
ただもちろん、ビルドされたマシンが特定されたことは被告人=真犯人にとって、非常にショックだったに違いなく、それが今回の無謀な行動の引き金になったのだろうな、とは想像する。
対応して弁護側に近い技術者の動きも、決して間違えてはいなかったと思う。唯一おかしかったのは、おごちゃんの勘が外れていた事か。
遠隔操作裁判に行って来た
正直、この種の「見立て」が外れることは滅多になく、L.starも似たような予断を持っていたので「こいつにiesysとか書けるかよぷげら」という思いがあり、それが今回ハズレを引いた感は否めない。遠隔操作ハッカソンというアイデア事態は良いものだと思うし、ただもしこれで全然出来ないということになると、弁護側としては苦しい立場に追い込まれたことだろう。
対して、被告人だが、弁護側の予想に反して、PCやスマホを隠しておくなど、非常に周到に用意した「ブラックハッカー」であったことが判明してきている。例えば以下に要約がある。
とはいえ、必ずしも万能なレベルではなかった。(完全な証拠隠滅=HDDのフォーマット以上の行為の難しい)勤務先で不用意にビルドをかけたり、秘密のPCのパスワードを忘れたり。例えばiesysに自己ビルド機能があれば、痕跡をたどるのは一層難しかっただろう。そういったより洗練されたレベルまではいっておらず、それが今回尻尾を掴まれる原因になったわけでもある。しかし、このレベルでも逆に言うと特定できないのか、となるともっと上のレベルが万一確信犯的な犯罪をした時にどうなるのか、という思いはある。
最後に彼は策に溺れてなのか追い詰められてかは正直まだ良くわからない部分があるにしても、メール送信したことが裏目に出て今回の結果となるわけだが、この点も個人的には外された。というのも、彼は非常に心理面は安定しているのかなと思っており、また作戦としては攻め切れないのを見越して検察を切れ負けに追い込むのを目的としていると思っていたので、こんな博打に出る必要性が全く思い浮かばなかったからだ。
いろんな事実やらなんやらが流れてくる中で「お母さんを安心させることが今回の動機だった。」というのが一番印象に残る部分だった。見えてこない「心理状態」が思ったよりずっと重要な役目をしていたな、という感想である。
なんかそういう技術的な雑感という名目の取り留めもないことを考えなから、ホワイトにしろブラックにしろ、結局まだ「技術より欺術なのか」ということに思いを馳せざるをえない。技術はもちろん万能ではないとはいえ、今はケビン・ミトニックの時代から格段に進歩している。それでもなお、真実を明かす程の力を持ち得ないのか。それは我々の努力不足なのか、単にたいそれた願望に過ぎないのか・・・
もちろん今のところは単に法定の外で語っただけに過ぎず、裁判としてはまだまだ先はある。しかし彼の「自白」によって浮かび上がった真実ほどはっきりしたものはなく、個人的には「ああ、終わった」という実感が似合う。弁護側関係者の人のブログのエントリにもそれが見て取れる。
PC遠隔操作事件:すべての謎が解けたあとに残るもの
今後の可能性としてもちろん「自白を第三者に強要された」とか「精神的に錯乱していた」とかという主張も不可能ではないが、正直今明るに見に出た以上のものはないのではなかろうか。
今回注目すべきところはもちろん色々あって、警察・検察の対応の強引さやマスコミから飛んでくる飛ばしっぽい記事として伝えられる「体制側」の問題、最後に自白によって明らかになった被告人の精神状態と、それに結果として踊らされた弁護側など、面白い部分も多いが、ちょっと登場する技術者たちにフォーカスして考えてみた。
ここで登場するのは4種類の「人たち」である。
- 被告人
- 弁護側技術者(要するにおごちゃん)
- 検察側技術者
- 「真犯人」
もちろん今となっては4.真犯人=1.だということは分かる。しかし弁護側の主張はほぼ一貫して「被告人はあくまで踏み台にすぎない」としている以上、「真犯人」を仮定せざるを得ないわけであるし、またそれはあの時点では十分蓋然性を持った意見であった。話がややこしくなるのがこの「真犯人」がどれほどの技量の人物かわからないため、スーパーハッカーによる完全犯罪で、被告人もまた被害者であることを否定出来ない点にある。
とはいえ、警察の対応に疑問符が付いている一方で、検察側の技術者は良い仕事をしたのは間違いない。まず争点として「被告人は何の関係もない人物である」というのは最初からなく、関係人物に絞り込むのに成功している。その上で、ファイルスラックまで調べあげて、実際にiesysがビルドされたマシンを特定するのに成功している。
【PC遠隔操作事件】第2回公判傍聴メモ・最初の検察側証人は「ファイルスラック領域」を強調
正直言って、これを見たあとで「このマシンはiesysがビルドされた痕跡がある」というのを否定するのはかなり困難である。1年に及ぶ拘留期間というのも、このへんも含めた徹底的な解析にそれだけ時間をかけたということだろう。もちろん、それが意味するのは「被告人がビルドした」か「被告人のマシンを乗っ取った真犯人がビルドした」のどちらかである。
結局「スーパーハッカーなんかいなかった」という命題を後付で導入すれば、もちろん消去法で「このマシンを使って、C#でプログラムを書けた人」が犯人となるわけだ。しかし、情況証拠がどこまで重なっても、真犯人の可能性を消すことは出来ない。もしも自分でこの証明作業をしていたら、「たぶん被告人が犯人で間違いない、と思うのだが、証明できたというところまで辿りつけない」というところまでしかたどり着けなかったろう、と思う。ある意味では、今回の事件におけるホワイトハッカーの限界、というわけだ。肝心なところは今後の公判のために温存していたのかもしれませんが。
ただもちろん、ビルドされたマシンが特定されたことは被告人=真犯人にとって、非常にショックだったに違いなく、それが今回の無謀な行動の引き金になったのだろうな、とは想像する。
対応して弁護側に近い技術者の動きも、決して間違えてはいなかったと思う。唯一おかしかったのは、おごちゃんの勘が外れていた事か。
遠隔操作裁判に行って来た
正直、この種の「見立て」が外れることは滅多になく、L.starも似たような予断を持っていたので「こいつにiesysとか書けるかよぷげら」という思いがあり、それが今回ハズレを引いた感は否めない。遠隔操作ハッカソンというアイデア事態は良いものだと思うし、ただもしこれで全然出来ないということになると、弁護側としては苦しい立場に追い込まれたことだろう。
対して、被告人だが、弁護側の予想に反して、PCやスマホを隠しておくなど、非常に周到に用意した「ブラックハッカー」であったことが判明してきている。例えば以下に要約がある。
「死のうとしたが死に切れなかった」「いち早く裁判を終わらせたかった」「サイコパスは自分」「お母さんを安心させることが今回の動機」
とはいえ、必ずしも万能なレベルではなかった。(完全な証拠隠滅=HDDのフォーマット以上の行為の難しい)勤務先で不用意にビルドをかけたり、秘密のPCのパスワードを忘れたり。例えばiesysに自己ビルド機能があれば、痕跡をたどるのは一層難しかっただろう。そういったより洗練されたレベルまではいっておらず、それが今回尻尾を掴まれる原因になったわけでもある。しかし、このレベルでも逆に言うと特定できないのか、となるともっと上のレベルが万一確信犯的な犯罪をした時にどうなるのか、という思いはある。
最後に彼は策に溺れてなのか追い詰められてかは正直まだ良くわからない部分があるにしても、メール送信したことが裏目に出て今回の結果となるわけだが、この点も個人的には外された。というのも、彼は非常に心理面は安定しているのかなと思っており、また作戦としては攻め切れないのを見越して検察を切れ負けに追い込むのを目的としていると思っていたので、こんな博打に出る必要性が全く思い浮かばなかったからだ。
いろんな事実やらなんやらが流れてくる中で「お母さんを安心させることが今回の動機だった。」というのが一番印象に残る部分だった。見えてこない「心理状態」が思ったよりずっと重要な役目をしていたな、という感想である。
なんかそういう技術的な雑感という名目の取り留めもないことを考えなから、ホワイトにしろブラックにしろ、結局まだ「技術より欺術なのか」ということに思いを馳せざるをえない。技術はもちろん万能ではないとはいえ、今はケビン・ミトニックの時代から格段に進歩している。それでもなお、真実を明かす程の力を持ち得ないのか。それは我々の努力不足なのか、単にたいそれた願望に過ぎないのか・・・
コメント