SF・ファンタジー作家のアン・マキャフリィが先週お亡くなりになったと聞いて大ショックの一日だった。Steve よりDennisよりショックというと言い過ぎか。

訃報:米作家アン・マキャフリーが死去


マキャフリィ、というか私的には「アンおばさま(といっても85歳だし、L.starが彼女の著作に触れた頃にはもう60代だった)」はスペック的には最初にヒューゴー・ネビュラ両賞(中編部門)を取った女流SF作家のはしり、と言う紹介になるが、稀代のストーリーテラーという印象が強い。とにかく力でぐいぐい押して読ませる作風。科学的考証はそこそこできているが、小説としての伏線の張り方とかに難があるというか、わかりやすく配置して回収するふりすらしないフラグクラッシャーぶりが見受けられる。そんな大味な作風が大好きでした。

そんな大御所のご逝去を悼んで、ちょっとした紹介エントリを起こすことにしました。

 

代表作としては「パーンの竜騎士」シリーズ。あまりにも多いので1巻だけ貼っておく。ちなみに今年映画化が発表されている。

糸胞が定期的に降る惑星パーンを舞台に、遺伝子操作で作られた竜とその乗り手を中心に繰り広げられる一大シリーズ。ファンタジー色の強いSFで、どっちか一つに決められないのが特徴である。「竜の挑戦」で一応完結しているが、外伝、サイドストーリーを含め展開している上、息子トッドが後を継いで書いているので、これが読めなくて残念!ということはない。

なお、ハヤカワ文庫では「アダルト三部作」と「ジュブナイル三部作」という区切り順で発刊しているので、原書刊行順とは異なる。読むときは原書刊行順に1,2,4,5,6,3巻と進行することをおすすめする。その先は刊行順に読んで良いが、進むにつれクライマックスへとまるで週刊誌の連載マンガのように話が発散していく。そこもご愛敬である。

私的ベストはメノリが主人公の4巻「竜の歌」と5巻「竜の歌い手」の二部作。


たぐいまれなる才能を持ちながら、環境に阻まれうまく生かせない主人公の葛藤とサクセスストーリーは、社会に閉塞感を感じながらもそれを打倒したい若者の心に結構刺さるだろう。特に竜の歌い手のほうは、L.starが前に進んで頑張らないといけないとき、いつも心の支えになった一冊だ。絶対おすすめ(だが、単体で読んでもありがたみは薄いので全部読め)。

おばさまのフラグクラッシャーぶりはこのころから健在で、3巻「白い竜」のきっかけとなる非常に印象的な、どうみても次巻の主人公決定イベントとしか言いようのないすばらしい描写が2巻「竜の探索」にあるのだが、実は単に書いただけで続編は考えてなかったとか。ありえない!!!!

 

次は「歌う船」。TRPG「トラベラー」とそこはかとなく似た世界で、女性の脳を移植された宇宙船と宇宙船乗りの物語。これも1作だけ。

なお初期の作品である一作目以外は若手との共著。共著者にはヴァルデマール年代記のマーセデス・ラッキー、マジカルランドシリーズ(故ロバート・アスプリンと共著で、現在引き継いでいる)のジョディ・リン・ナイ等々、錚々たる面々が含まれる。それゆえ作風がかなり異なるのだが、それが世界観に深みを与えている。

個人的ヒットはそこはかとなくラブストーリー仕立ての「旅立つ船」。ラストは泣けます。

それから「九星系連盟」シリーズ。

短編「等のなかの姫君」あたりと初期の「ペガサスに乗る」をベースに作られたエスパーたちが恒星間の物流をになうという一風変わった世界のお話。主人公家族が全員強力な超能力者という設定が非常に強力で、他種族とのコンタクトとか見るべきところがいっぱいあったはずなのだが、2度読んでるのにある種ほのぼの家族物語という印象しかない。

おばさまは多作な方だったのでほかにもいろいろあるが、日本語で読めるところはこんなところだろうか。とにかく物語を語るのが好きなんだろう、というのが小説からも漂ってくる希有な作家でした。天国でもきっと執筆されるのでしょう。死後天国での新作が読めるのが楽しみです。