昨今の「ゆとり世代」の学力が低い、というのは彼らが馬鹿かどうかとあまり関係がない可能性が高いという計算をしたことがある。というのも単純で、ゆとり世代は進学率が高いからだ。Wikipediaの進学率によると、1989年に25%ほどだった進学率は、2009年ではなんと50%を越えているという。

この25%と50%の差がどのくらいの大きさになるかというと、適当にガウス分布っぽいソースを作成し、その上位25%と50%の平均値を取ってみればいいだろう。元ソースとして1-100の乱数を3回出してその平均を取って作成した場合、結果は上位25%の場合71.3ポイント、一方50%なら63.5ポイントとなった。約8ポイント下落したことになる。

偏差値で言うとこのソースの標準偏差は16.6、平均は当然50なので、計算すると62.8から58.1に落ちたことになる。実に4.7ポイント。もちろん同一集団を仮定しているので、世代としてみれば同じ程度の頭の良さといえなくもないはずである。ちなみにこれは平均の話なので、底辺層などを計測するともっとひどい数字を見ることができる。

一方企業の側から見ると、一定数の優秀な人材がほしいという点は変わらない。よって、このような状況に対処するためには以下のような戦略が考えられる。

  • 大学が頑張って、今までと同じレベルまで引き上げればいい
    カリキュラムの改善などによって、より高度な人材を輩出できるように教育するのは選択肢の一つである。ただし、これを行うためには大学組織の改革などが必須であり、大変な規模になるのもさることながら、その費用を誰が負担するかという話になる。そもそも、大学の改善レベルを遙かに超えているからこの問題が露呈しているわけである。
  • 質をあきらめ今までと同じ量の人材を採る
    つまり、今までと同じように採用を続ける。ただしそれによって下がる人材の質をカバーするためには、訓練、社内改革、あるいはサービス残業やコスト削減などで、企業内での一人あたりの生産性の向上が急務となる。
  • 量はあきらめるが質のこだわりは辞めない
    より絞った採用にすることで、今までの均質性を維持することができる。それによって大学の淘汰が発生するため、ただし、量をカバーするためには派遣や系列会社などの利用によって、外部からの人材を積極的に持ってくる必要がある。
  • 母数そのものを増やせ
    採用をグローバルにしたりするなど、そもそも既存の枠にこだわらない採用を行えばこの影響を受けない。

こう見ると、派遣社員やサービス残業などの増加は、案外時代背景にそった結果だと言うことが分かる(だからといって肯定できるかどうかは別だが)

また、大企業がグローバルに人材募集をかけるのは、もはや従来のレベルを維持するには致し方がないことだと言うことも理解できる。もう日本だけでは衰退していくしかないのである。

・・・いや果たしてそうだろうか。グローバルしかない!というのは、確かに日本の人材を隅から隅まで調べ上げた結果であれば正しい。しかし日本社会はそのようになっていない。WSJのブログに興味深いものがあった。

Women: Japan’s Secret Economic Weapon

The argument goes like this: While Japan’s overall female employment rate is now at a record 60%, there’s still a significant lag behind the men’s participation rate of 80%. If the female employment rate was also 80%, this would add another 8.2 million employees to the work force and boost Japan’s GDP by as much as 15%

ここでは男性と女性の就職率が、80%:60%と差があり、その部分を対等になるまで高められるなら、さらに820万人の新しい雇用者が発生すると指摘している。かつて「1000万人移民受け入れ構想」と言っていた数字に匹敵するだけのものである。特に女性の退職理由などは、第2回21世紀成年者縦断調査(国民の生活に関する継続調査)結果の概況の調査結果などをみるに、出産・育児という直接能力と関係のないものがトップである。中には優秀な人材も眠っているわけだ。

かつて鹿野司氏がエッセイ(しかもログイン時代の古いものだ)で、氏が鉱山のビジネスモデルとして、良い鉱脈とあまり良くない鉱脈を同時に掘って、鉱山全体の収益を維持しつつ、かつ収穫総量を増やすということをしていると言っていたのを鮮烈に覚えている。今までの日本は、男性というコントロールのしやすい人材獲得に特化したことで利益を得たが、その代わりに(出産や育児というリスクを持つ)女性をないがしろにした。現在は総量が足りないのだから、その考え方を変える必要があるのだ。

もちろんうまく生かされていない人材種別などと言うのは類挙にいとまがない。博士やポスドクのような研究者は優秀だが企業から敬遠されている。あるいは企業社会になじめないアウトローのような人材だってたくさんいる。オタクだってそういう価値観から離れて能力を発揮している人である。極端に言えば移民だってそういうたぐいである。こういった多様な人材をどうやって生かすのか、というのがこれから本当に問われている。

このような基礎的な数字を昔はじいて知っているおかげで、L.starは新卒という慣行の行く末を全く心配していない。新卒の信頼度というのは、彼らの能力や忠誠度いかんにかかわらず、大学の数が大幅に減らない限り、落ちていく一方なのである。結局のところそれに気付いた企業が新卒に頼らずに大量雇用し、成果を上げることになり、そうなると他社も追いかけざるを得ないのだから。

そういう時代に生きて採用される側の人はどうすればいいのか?というと

日本を出て行けなくても現状を打破したい若者に贈る6つのアドバイス

で述べたとおり、欧米流のジョブホッパーになったつもりで、自分の価値を高め続けるレースに参加するのだ。新卒かどうか、履歴書が手書きかどうかなど関係なく、能力が問われる時代に備えて自分を磨けばいい。時代は変わるときには、いろんな状況に対応できる能力を磨くのが一番である。