自分の視点で自分なりにソフトウェア産業のありようというのを見つめ直そうと唐突に考えた

ソフトウェア産業の16の重大なマイルストーン

からの続きで考察篇。元エントリも絡めてみてほしいが、改めて項目だけ抜き出すと以下の通り。

  1. 専業プログラマ。
  2. 複数人開発。
  3. 初歩的な開発プロセス。
  4. 専業ソフトウェア会社。
  5. 低級言語と高級言語
  6. パッケージソフトウェア
  7. 標準ライブラリ
  8. 高度な開発プロセスとプロジェクト管理
  9. モジュール化の推進
  10. 小規模ソフトハウスとアジャイル開発
  11. RAD/軽量言語
  12. ネットワーク対応
  13. オープンソース
  14. 世界規模のプロジェクト管理 /バザールモデル
  15. 知識集約型開発
  16. クラウド/ソフトウェアのサービス化

これを元に時代分けをできなくもないだろう。例えば

  • 1-4はハッカーの時代
  • 5-8はメインフレームの時代
  • 9-12がオープン化
  • 13以降がインターネットの時代

とでも分けられるだろうか。なお、なんか似たような技術(プロジェクト管理とか)が時代ごとにあるような気がするが、実は書いた当人は、並べるに当たって全く意識はしていない。偶然である。

これらを並べてみると、いくつか興味深いポイントがあるのに気付く。

  • 規模が増えるにしたがって複雑化するプログラム構造は、階層化や役割分担によって整理されるようになった。こういったノウハウの蓄積は、一人あたりの生産性を格段に向上させた。
  • 同時に1プロジェクトに従事できるプログラマの数も増加し、管理技術も向上した。
  • 飛躍的に伸びる管理技術と一人あたり生産性の関係によって、少数精鋭か集約型のどちらがよいかは揺れ動いた 。

特に少数精鋭か集約か、と言う問題は非常に大きなポイントである。今回の考察ではその切り替わりは3回あったわけだが、現実にはもっと多かろう。そしてもっと重要なのは、切り替わりが発生してパラダイムがかわるのは、大企業にしろ中小企業にしろ、彼らがその有り様を変えるよりずっと素早いということだ。

翻って、例えば日本の会社というのはどのマイルストーンを基軸にしているだろうか。個人的な感触で言うと以下のようになる。

  • やや旧式の大企業のSI部門=5,6,7
    ->メインフレームの時代
  • 大規模SIer=8,9
    ->メインフレームの時代からオープン化の時代のあたり
  • 小規模ソフトハウス=10(,9,11?)
    -> オープン化の時代
  • 成功しているベンチャー、あるいはネット企業=13,15,16
    ->インターネットの時代

むろん各企業により、あるいは部署により実態は大きく異なるため、全てがそうだ、と言い切るつもりはない。例えば大規模SIerの中には、組織がきわめて縦割りに細分されていて、各部署があたかも独立企業のようにまで見えるところもあったりしていて、そういうところはどっちかというとやや小規模ソフトハウスよりである。しかし、こういう有り様を見ていると、日本のソフト業界の変遷も案外途中までは間違っていない。

これは別に海外でも大きくは変わっていないだろう。欧州にあるSIerもGoogle.Amazonには歯が立っていない。彼らはなにしろ純然たるグローバル企業であり、地力が違いすぎる。世界に名の知られていない米国企業にはもちろんなじみがないが、このようなヒエラルキーがあるだろう。そして勝者になっているのは常に新しい時代のもたらす生産性を味方につけた会社だ。

またこう並べてみると、社員20人から先に進めない小規模ソフトハウスを書いたときには一つの解法として書いていた「プロダクト持ちになる」は、間違っていることが解る。プロダクトを持つことはここでは6.パッケージソフトウェアになる。これは従来ハッカーの時代からメインフレームの時代への進化に必要なものだった。そして、小規模ソフトハウス=ハッカー集団と考えると、それは全く正しく見える。

しかし小規模ソフトハウス自体が、大規模開発に対するアンチテーゼという新しいパラダイムに基づいているのだから、改めてパッケージ化に進むというのは以前の大企業モデルに戻ってしまう。これはパラダイムの後退であり、つまり退化である。うまくいくはずがない。

じゃあどうやればいいか、というのは判然としない。優秀な人材を集め価値のある知識集約型の会社に変身し、サービス持ちになって逆転を狙う、というのがまあここを見ているだけなら正しいようにも感じられるが、それをするならもっと身軽になってしまわないといけない。結局のところ、やはり20人というのは大規模化するには小さすぎ、先鋭化するには大きすぎる、一種の袋小路なのかもしれない。

 

さてここで日本の会社をどうしていくか、と言う話だが、今前インターネット時代にある企業がインターネットの時代のグローバル企業に負けないためにできることはいくつかある。

  • 一人あたりの生産性を高める。
  • 人数を増やして全体の生産性を高める。
  • 自社もインターネットの時代のグローバル企業になる。
  • ここには書かれていない17番目のマイルストーン、5番目の時代を探して飛び込む。

最初の2つは旧来のスキームを維持しつう生産性を高めるということで、どこの会社もやっているが当然いずれも限界がある。人数を増やす方はブルックスの法則の影響を受ける。マージンを減らすこともできるが、そうなれば今度は制約条件理論によりボトルネックにやられる。一人あたりの生産性を上げるために労働量を増やすのは、ただでさえITはブラックと揶揄される昨今、すでに限界に来ている。いずれにしても、短期では数字上は追いつくことは可能だが、長期的には無理だ。

これは現在の日本のIT業界のじり貧を見事に表している。個人的には、こんなことを続けるぐらいならグローバル企業に負けないことなんてやめればいいのだ、と思う。そうなるとローカルの、低報酬低成長企業へ後退することになるが、文化・文明にとって重要なのはそれが持続可能であることだ。持続不可能な無茶に意味などありはしない。

3番目はサービスを軸に優秀な人材をかき集め、とい今成功しているインターネット企業がやっていることそのものである。ただし既存企業にとってはこれほどの転換は大きな賭である。グローバルだからと言って英語や海外支社が必要か?というのはまあその業種にもよるだろう。ただ、正直英語も読めないソフトウェアエンジニアがこういうクラスを目指す企業に必要とされるとは信じがたい。

最後の4番目、次のありようが何か?ということだ。が、時代は小規模->大規模->小規模->大規模と来ているので、次は小規模のターンである。個人的には2点が見えているかなと思う。

  • 強烈な個性と能力を持ったデザイナーによる世界レベルの枠組みの提供
    バザールモデルで構築された巨大なプロジェクトに対する方向性を一つにまとめるような強力なIT業界上のイデオロギーというのが今まで欠けていたように思われる。例えばスマートフォンの世界ではiOS vs Andriodという構図ができている。もしこの推測が正しいなら、Jobsはその発明者であるといって過言ではないだろう。
  • コモディティ化したクラウドを使ったもっと高速なサービス展開
    クラウドが普及することにより、サービス展開もより高速にできるようになった。同時期に普及しているスマートフォンやHTML5/JavaScriptのようなプラットフォームも、それを後押ししている。それにより、顧客ニーズにより素早く対応することができるから、熱心な少数の客を集めるアプリケーションを多数作る、という従来できなかった贅沢ができる。実際ソーシャルゲームを見ていると、今までの大作ゲームとは考えられないぐらいのやりかたが有効に作用していると見える。

もちろん重要なポイントはこれだけじゃない。前者はともかく後者については、米国より数は少ないだろうが、少しずつ実際にそういうベンチャーが出てきている(最近のニュースで言うと、TC Disrupt―日本のGunzooはFabric Videoでビデオ検索方法を変えるとか)このようなベンチャーの挑戦は価値のあるもので、成功は日本の閉塞感への突破口の一つになるだろう。

あるいは、日本版シリコンバレーが成功しないたった一つの致命的な問題で指摘したように、日本にはこういった超小規模より、やや大きめのモデルが適しているのではないか、という話がある。となると、5.5番目の時代ということになるだろうか。ここまでくるとさすがにすぐは見えてこない。

ただ一つだけ思い浮かぶのは、プロジェクトXによくあったような、企業内のはねっかえりが徒党を組んで、と言うパターンだ。アメリカで言うところだとスカンクワークス。ただしこれは大企業が強力な資本プールかつ人材プールであることが必要になり、日本で今それに相当するものが思い浮かばない。しかしかつての日本で2ちゃんねる発のすごいものがきら星のように現れたように、たぶんそのときになって「ああ、これだったか!」と気付くのだろう。

 

改めて自分の目で自分なりに歴史を考察してみて、日本のIT業界は思ったよりずっと最前線のアメリカに食らいついていて、今も決して一部のグローバル企業とは差がついたとはいえ、最前線の方はまだまだついて行ける、と感じた。

ただ一点問題はやはり「グローバル企業に勝てる枠組みを有していないのに数字だけは追い求める」という会社の存在で、これは一つのボトルネックになっている。こういった会社が退場したり、改良を助けることによって、見違えるほど改善するのではないだろうか。

まとめると「ベンチャー大事」「ブラック会社はつぶそう」「グローバルで勝てる会社になれ」とか、ごくごく普通の結論になってしまったようだ。結局のところまたブルックスの言葉を借りると「銀の弾丸はない」と言うことだろう。少なくとも彼が言ったとおりこの10年というスパンでは。