オランダでは2月に、連立与党第一党のキリスト教民主アピール(以下CDA)と第二党の労働党(以下PvdA)がアフガニスタンの派兵問題でもめたことが原因でバルケネンデ政権が崩壊した。それを受けて6/9に総選挙があり、第二院の選挙が行われた。どうでもいいが第一院は州議会の投票により任命されるので、このような解散の影響を受けない。

日本では主に政権交代があったこと、そして極右政党であるオランダ自由党(以下PVV)が台頭したことがニュースで取り上げられている。

オランダ総選挙、反イスラム政党が躍進

オランダ:自民と自由党が勢力拡大 イスラム移民に警戒感

オランダ総選挙の結果(1)、極右PVV党が躍進

まあL.starはまだ選挙権はないが、これから住み続けるならばちゃんと勉強しないといけないと思うので、この場を借りてまとめてみた。

まずは実際にどのような結果になったかを表でまとめたい。またオランダの政党は日本人にはなじみが薄いと思うので、Wikipediaよりできるだけ情報をひっぱってきてリンクも張っておく。Wikipediaなので不正確かもしれないことはご容赦をいただきたい。

党名 略称 党首名(年齢) 得票数(前回) 政治
スペクトル
政策面
自由民主国民党 VVD Mark Rutte (43) 31(22) 中道右派 新自由主義
労働党 PvdA Job Cohen (62) 30(33) 中道左派 社会民主主義
自由党 PVV ヘルト・ウィルダース (47) 24(9) 極右 国民保守主義
キリスト教民主アピール CDA ヤン・ペーター・バルケネンデ (54) ※ 21(41) 中道右派 キリスト教民主主義
社会党 SP Jan Marijnissen (58) 15(25) 左派 社会主義
グリーンレフト GL Femke Halsema (44) 10(7) 左派 グリーン・ポリティクス
民主66 D66 Alexander Pechtold (44) 10(3) 中道左派 社会自由主義
キリスト教連合 CU André Rouvoet (48) 5(6) 中道 キリスト教民主主義
動物の党 PvdD Marianne Thieme (37) 2(2) 中道 動物福祉
政治家改革派党 SGP Kees van der Staaij (41) 2(2) 右派 改革派教会

※バルネゲンデ元首相は選挙後辞任を発表し、CDAの新党首にはMaxime Verhagen(53)が選ばれたと言うことである。

次に簡単に個人視点からの総括を試みたいが、ポイントの一つはなんといっても極右で有名なPVVの大躍進である。ウィルダースの反イスラム姿勢は、はっきりいって個人的にはあきれかえるほど。彼が公開した映画「フィトナ」は実は見たのだが、問題点の指摘は正当だと考えるとしても、イスラムに対する憎悪で吐き気がするような代物である。いったいどのような人が新しくPVVの支持層になったのかは気になる。L.starはアムステルダム近郊在住だが、正直全然思い浮かばないし、@TOMOKOamsterdam氏も同様の疑問をつぶやいている

しかしPVV大躍進という目玉はあれど、それ以上にCDAが負けている。政治スペクトルの話だけであれば、実際には人数的に右派左派の移動は少ない。右派政党(VVD,PVV,CDA)の議員合計は76で、前回の72から比べれば、今回ようやく定数150の過半数を取って、若干左よりから若干右よりに移行した、ぐらいである。実際には与党第一党だったCDAが削られた分が、同じ右派のVVDやPVVに吸収された、という感じだろうか。左派内についてもSPで減った分がGLやD66に吸収された感じで増えていない。

トリックはというと、やはりよく言われる「左派は都市層に強く、右派は地方に強い」というこの分断で説明できるようである。Labour was the biggest party in the four main citiesによると、オランダ4大都市(アムステルダム、ロッテルダム、ハーグ、ユトレヒト)では全部PvdAが一番強く(ちなみにコーエン党首は直前までアムステルダム市長だった)、ロッテルダムではPVVが、ほかではVVDが2番手だったということで、都市部では引き続き左派が堅調だったのだろう。

一方特に地方では従来キリスト教徒基盤の強かったCDAが大苦戦し、その分が別の右派勢力に流れた。特にリンブルグ州ではCDA票の減少分がPVVに流れ、得票率25%取ったと言うから地方の不満を吸収した結果だろうと考えられる。(@portfolio_news氏のツイート

考えるとアムステルダムはもともとリベラルで左翼的であり、右翼の台頭を感じられない都市ということなのかもしれない。実際2004年にイスラム過激派による暗殺事件があったことを考えるとこれは奇跡的なぐらいで、当時のコーエン市長=現PvdA党首の能力には驚くばかりである。そしてこれが住んでいるのがロッテルダムなら、又違う感想になったのかもしれない。

さてその後であるが、

オランダ総選挙の結果(2)、連立政権の行方は?

でも解説されているが、VVDの党首ルッテ氏中心に連立内閣が組閣される。が、なにしろどの党も定数の25%(37.5)すら取っていないため、最低でも3党の連立になることになり、交渉はこれからである。

PvdAがPVVとの連立を拒否している。まあ移民問題のあまりの違いを考えると当然のことだろう。そのため、連立の可能性としては6通りになる。おおざっぱにその組み合わせを分類すると

  • PvdAとの左右リベラル政権+D66,GL,SPなど
  • PvdA、CDAの元与党たちと
  • CDAとの中道右派政権+D66,GL,SPなど
  • CDA+PVVで右派

の4つである。個人的には一番上を期待したいところだが。組閣のための作業は

VVD wint na nek-aan-nekrace met PvdA

によると(L.starの拙いオランダ語読解力が正しければ)7/1には完了させる予定で望むようである

ところで、このようにみてみると、本当に日本とは異なった方法で政治をしているのだな、ということを感じざるを得ない。まずわざわざ表に党首の年齢を記載したが、見て分かるとおりみな若い。コーエンこそ60代だが、平均はおそらく40代、そのうえ30代の党首まで居る。ひるがえって日本の党首はどう見ても最低50代。若いということはもちろん善し悪しだが。

もう一つはなにしろ政党の規模と数、その多彩さである。これには歴史的な経緯もあるが、なにより政治システム自体の差が大きいことがあげられる。しかし、今の日本の政治に「選挙してもなにも変わらない」と閉塞感を抱く人にはオランダの政党のほうが魅力的に映りはしないだろうか。なにしろ自分の意志をずっと強く示すことができる。もっとも、連立過程で第一党が過激な政策を主張していても、実際は薄められるため、それほど強く意思表示できるわけでもない。

無論、このような政治システム変更は大規模で、場合によっては憲法問題にもなり得る。そもそも政党を切り刻んで小さくする命令を出すことなど誰にもできない。日本にそのまま適用するのは全く不可能と言っていいだろう。もしも日本がオランダのような穏健な多党制になるなら、それは自民党と民主党の両方が崩壊して、大量に新党ができたあとに自然発生的にということになるだろうか。それはそれで避けたいシナリオである。

まあとりあえず、「これを真似れば日本は良くなる!」のような凄いものをオランダの選挙に見いだすことはいまのところできなかった。おそらくないだろう。しかし、民主主義政党政治、と言う点で分かったつもりになっても、実際各国のシステムはずいぶん異なっているなあ、と思う次第である。