嫁によると。L.starがオランダに来て割とすぐに「こんな快適な通勤してたら、日本に戻ったら耐えられない!」といっていたそうである。考えれば日本では電車通勤だとあの地獄の田園都市線を経験したり自動車通勤でも環七の渋滞に引っかかったりで、あまりいい経験がない気がする。とはいえ、そもそもオランダが快適だったのは職住近接になってしまったこと、あと都市周辺部に勤務先があるからなんですけどね。オランダだから常に楽か、と言うとそういうわけでもなくて、まあうちの同僚なんかでも地獄の渋滞をくぐり抜けてたりするわけですけど。

じゃあオランダと日本比べてどうなの?と言う話ですが、今日実際に世界の通勤時間比較結果が公表されているのを以下で知ったわけです。

世界の通勤時間比較(ポートフォリオ・ニュース)


同じデータがEconomistにもでていたのでこれが2009年の8-9月のデータだと言うことが分かりますが、こちらは離職理由として通勤時間をあげる率まで含めて掲載されています。オランダは実に平均28分、また離職理由としても唯一の一桁台と低く実に優等生なのがわかります。一番時間がかかっているのは中国でしかしそれでも42分。離職理由としてトップなのが中国と南アフリカの32%。通勤時間が一番長い中国が一番高いのはわからないでもないんですが、南アフリカは通勤時間のほうが28分でオランダと同じなのにずいぶん高いですよね。この辺は謎です。南アフリカの人には移動したくない理由でもあるんでしょうか。しかし、中国インド以外は、通勤時間の長さと退職理由に相関は見られません。あとはUSとカナダが2トップで通勤時間が短く、北米が実にうらやましい大陸であることが分かります。

しかし残念ながら日本の数字はありません。ここでL.star的にはJRの最寄り駅から徒歩15分のところに長くすんでいた経験から電車に乗ってから25分でつくとかありえないし、また数回の退職もすべて通勤時間とは関係ないので、退職理由としては少ないだろう、と考えられます。この妄想を裏付ける日本についてのデータはいくつか見つかります。ただ、別調査なので当然簡単に比べるわけにはいきませんが、どうせブログなので気楽に比べていいでしょう。離職理由は厚生労働省が調査をしています。

第6回21世紀成年者縦断調査(国民の生活に関する継続調査)結果の概況 より、5 仕 事をやめた者の退職理由


これによると通勤時間を理由とする退職は最大でも9%というところで、オランダと同じかそれより低いぐらいです。まあL.starの予想がずばり当たった・・・わけではもちろんなく、そもそも離職率の低く、年功序列終身雇用という幻想があって、長期勤務傾向の強い日本では、通勤がつらいからといってそうそうやめたりはしない、ということなのでしょう。しかし離職理由の2桁台のものはもっと深刻な理由が多いですねぇ・・・

おっと、今まで非正規だった男性は、正規だった人に比べて退職理由に通勤時間が少なく、1-4%ですね。通勤時間の長い日本では非正規労働を増やすべきだ、という理由がここに一つ見つかりました。しかしそういう人たちに特有の理由は「新しい仕事がみつかったから」「一時的・不安定な仕事だったから」「契約期間が満了したから」などと、身も蓋もない理由が多いですね。ところでこの「新しい仕事がみつかったから」退職したのに「仕事なし」と分類されている人は何なんでしょうか。せっかく新しい会社を見つけたのに肌に合わなかったのでしょうか。なんか哀愁を感じる数字です。

それから、

1日の平均通勤時間はどれくらい? 理想は34分、現実は……


にあげられている結果によると「60分」となっています。まあ一時は2時間通勤もしたこともあるL.starとしてはそんなに短いはずはない!と思わなくもないんですが妥当な感じではないでしょうか。ちなみに、どちらの調査も片道なので、オランダと日本では平均して1日1時間の差があることにあることに注意してください。日本はつまり、仕事・趣味・家庭や健康のために使える時間を、1人あたり1時間、1000万人で言うと1000万時間、つまり6万2500人月(一日8時間、月20日計算)も通勤時間のために無駄にしていることになるわけです。何という無駄遣いだろうか!こんなことだから日本は世界に置いてきぼりなのだ!ガラバゴス日本は、今すぐ通勤時間短縮の手を打たないと終わりなのだ!がしゃんがしゃん!(窓ガラスを割る音

・・・おっと取り乱してしまいました。実は上記の数字は首都圏のみを対象としているとか、持ち家のある人だけだとかいろいろ偏っているのが明らかなので、今回の数字とは必ずしも比較できません。例えば米国でも、ニューヨークやサンフランシスコにすんでいる人は平均23分なんてことはなくてよりももっと過酷な通勤を経験しているでしょうから、これをもって米国よりずっと悲惨だ、と言うのは間違いです。

それに通勤時間自体は、実際にはそれ自体を有意義に使っている人も珍しくないんですよね。その時間をいかに有意義にするか知恵を絞っている人もたくさんいるわけです。本を読んで勉強する人、音楽や漫画でリラックスする人、プログラム書いたり仕事する人、カーレースを楽しんだり彼女といちゃつく人(実物はご遠慮ください)、あげく化粧する人までいます。乗務員やスリに至っては就業時間そのものです(※スリは犯罪です)だから、この時間差も、どれだけ通勤時間が有意義に使われているかが問題になるでしょう。仮にこの数字を信じて日本の通勤時間がずいぶん長いとしても、日本人がそれを有意義に使えるなら、むしろ逆転することすら可能です。だから皆さん、いかに通勤時間を有意義にするか考えましょう。本や新聞を読めば知能が高くなり、化粧時間が長くなれば女性がきれいになり、スリの人の稼ぎが増えれば、経済が活性化します(※繰り返しますがスリは犯罪です)

しかし現実には通勤時間はストレスもつきものです。満員電車に揺られて押しくらまんじゅうは、ほとんどの人にとってつらいものです。せいぜい喜ぶのは満員電車をトレーニングの題材として使う人か、痴漢かスリぐらいです(※痴漢もそうですが、スリは犯罪です)ですから是非緩和していただきたいものだと思うのですが、ところがここ数年はフレックスタイム制度が廃止されているのが増えているそうです。例えば以下のURLでもそれについてデータを示しつつ賛否両論が入り乱れています。

フレックスタイム制度廃止に賛否☆大激論


しかし、個人的に思うのはこうやってみんなが9時に出勤する状態に戻ると、さらに朝の通勤ラッシュが集中して混雑するのではないでしょうか。ただし、夜は退勤時間がまちまちなので事情が異なります。いつも終電まで残る人は残業時間が増えてラッキーかもしれませんが。実際東京の朝9時のラッシュを毎日耐えるのは苦行で、それも年を追ってひどくなっていったような気すらします。そうやってどんどん負荷を集中させていくと、結局さらに混雑して有意義に使うべき時間がどんどん窮屈になって、日本の未来もどんどん暗くなってしまいます。一社のボトルネックを解消しようとするあまり、日本全体に通勤ラッシュという別のボトルネックを作り出してしまっているのです。つまり日本はフレックスを廃止するせいでだめになる!老害が自分たちの過去の栄光にすがっているせいで!こんな日本は駄目だ、打倒大企業!がしゃんがしゃん!(家電量販店で液晶テレビをたたき割る音)

・・・おっと又取り乱してしまいました。こうついつい自分の妄想で事実を次々と的中させてきたL.starも、こういう大企業叩きの内容になると熱がこもってしまいます。では実際のデータでこれを確認しましょう。まずフレックスタイム制の導入率は以下です。

平成19年版  労働経済の分析 ―ワークライフバランスと雇用システム―


そして、混雑率のほうは以下の通り。

三大都市圏の最混雑区間における平均混雑率・輸送力・輸送人員の推移(PDF注意)


残念ながら両者とも平成19~20年度までしかありませんが、それなりの相関が・・・あれ?東京は最近横ばい。大阪名古屋に至っては明らかに減少傾向です。たしかにフレックス制度が伸びた時期と、混雑率が大きく減少した時期はある程度一致していますが、それ以上はみられません。妄想で語ってもなかなかデータはついてきません。例えばひどい話ですが、集中する時間帯に人が流れ込んできても、それ以上に失業者が増えれば相殺されてしまいます。もっともリーマンショック以降のデータはここにはないので、そこを見ると傾向が又変わるのでしょう。しかしそれにしても大阪はずいぶん落ち込んでいて、混雑率も低いレベルになっています。通勤時間を有意義に使うためには、大都市でも混雑していない、大阪で仕事をするのがよさそうです。

まとめ



  • オランダは通勤時間については幸せそうな国ですが、短くても南アフリカでは不幸せです。

  • 特に男性は非正規労働者が増えると、通勤時間に不満で退職しなくなります。

  • せっかく仕事を見つけても、すぐ退職する人もいます。

  • 通勤時間を有意義に使うべきです。ただし、そのためにフレックスタイム廃止に反対するのは微妙です。

  • 大阪はいいところです。そしてお好み焼きは炭水化物だけじゃなくてキャベツと肉も入っていますから、お好み焼き定食はありです。

  • スリは犯罪です。


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今回は反社会学講座で敬愛するパオロ・マッツァリーノ氏の軽妙なタッチを借りて、やや口語文に近いコミカルな文章に挑戦してみました。個人的には彼が「つっこみ力」で指摘するとおり、笑いを交えた文章こそが万人に通用するメッセージにたり得る、という考えがあって、最近の堅い重厚なタッチだけではない文章に挑戦したい、と言うのはありました。まあギャグが寒い、とはよく言われるのでやぶ蛇かもしれませんけどね。またタイトルはマスメディアを殺 せば日本は圧倒的に独り勝ちするあたりからぱくってみました。
カーレースを楽し