割と頻繁に言っていることだけど、ヨーロッパで感じるのは「うま味」が不足すると感じること。あらためてWikipediaで調べてみると、西洋では日本人の言う「うま味」を、長らく理解していなかったらしい、と言う記述があってびっくり。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%86%E3%81%BE%E5%91%B3

ただ、この文章だけを見て「ヨーロッパ人はうま味を知らない」というのは間違っている。概念こそ定着していないものの、実際には経験的に「うま味」なるものに近いものを知っている。うま味を引き出す料理が少なからずあることから、それを知ることが出来る。ただ、認識の違いはにより、東洋人がうま味を外部から添加する方法を確立されたのに対して、欧米では素材からにじみ出るものを大切にする形になったのだろうなぁと考えてみたりする。

端的に知ることが出来るのは、すき焼きでおなじみ薄切り肉。実は、ヨーロッパでは「あり得ないもの」と認識されている。技術がないはずはない。薄切りハム、ベーコン、ローストビーフなどは普通に売られているし普通に食べられている。にもかかわらず肉屋に頼んでもなかなか売ってくれなかったという。ある外国在住の日本人の知り合いから聞いた話だが、昔、肉屋に薄切りを頼もうとしたら「味が全部抜けてしまうからダメだ」と言われたそうな。彼らの信条にかかわるようなことらしい。

なるほど考えてみれば、煮込みによってうま味を凝縮し、あるいは煮汁ごと食べる文化圏においては、肉のうま味が飛んでしまいやすい薄切りは御法度であろう。じゃあ何故ハムやベーコンが薄く切って良いのかというと、あれらはうま味が濃縮されているのだ。ベーコンから出る出汁で美味しいスープが作れるし、そういうレシピも豊富にある。そもそもベーコンは薄切りもあるが、角切りも多い。

一方日本人は何故気にしないかというと、こういう時のうま味はダシとして鰹や昆布で別途取るからだ。中華の炒め物も、各種炒め物ソースがある。こういう状況では、固くなりやすい長時間の煮込みよりも火の通りやすい、食べやすい薄切りが好まれるのは当然とも言えよう。

そう考えると日本でよく売られている形だけ燻製にしたようなベーコンやハムはあくまで薄切り肉の延長であり、出汁の素、つまり鰹節のような扱いはあまり受けていないことに気づく。だからヨーロッパに来て「ベーコンうまい!生ハム最高!」と思う。いやまあ、日本人が理解しているのかどうかは分からない。単に技術やノウハウの問題でうま味が出ていないのかもしれない。

一方、日本的な出汁には大変苦労しますが、幸い日本食ブームなので、鰹節や昆布はアムステルダムのような大都市近郊なら比較的簡単に手に入る。ありがたいことだ。薄切り肉だって「SUKIYAKI用」として入手可能だ。逆だったら、つまりヨーロッパ人が日本に来るなら大変なのだろうな。こちらで主流のブロック肉や、美味しそうなベーコンは見たことがない。日本は確かに何でも美味しいものが食える素晴らしい国だけれども、無論あらゆるものがそろっているわけではない。まだまだ西洋に学ぶものは多いかも。