ポール・グレアム「学歴社会の次に来るもの」 - らいおんの隠れ家.
ポール・グレアムは、多くのハッカーに影響を与えられる素晴らしい文章を書いている。L.starも例外ではなく、彼の文章が翻訳されるのをとても楽しみにしている。翻訳をしていただいている方々に感謝したい。
それはさておき本題である。グレアムはまず「子供に学歴を取らせるためにどのような手段もいとわない人」に対して何らかの手を打つべきだ、と言っている。
L.starも「学歴社会は絶対悪」と思ったことはない。しかし「学歴社会に最適化した行動を取る」ということは、とてもとても恥ずべきことだと思っている。それは事実上公認であろうが無かろうがチートである。そして、この種のチートを平然と行って罪悪感をいっさい持たない人間の多さに辟易している。
原則論として、学歴社会において学歴を測るのは、人間性を計測する一指標として測るのである。本来計測すべきは人間性であり、学歴ではない。グレアムの言う「学歴のハック」というものがどのようなものか見ればいい。まさに教育ママが狂喜乱舞している様と同じではないか。
そして、このような「学歴ハック」で出てきた子供がどのような行動を取り、社会にどのような弊害を与えるか? L.starはそれを「ゆとり」に見ている。いわゆるここ数年問題になってネットで揶揄されている「ゆとり」連中は、Wikipediaもまとめられているが、ゆとり教育を全面的に受けた世代ではない。彼らはこれから就職に面する。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%86%E3%81%A8%E3%82%8A%E4%B8%96%E4%BB%A3
それどころが、ゆとり教育直前の、むしろ受験の荒波にもまれた世代である。彼らが厳しい進学競争から一体何を学んだのか、と言う話である。
L.starは直接そういう世代と仕事をする機会が得られなかった。が、聞くところを総合すると、彼らの動く様は、巧妙に社会の弱点を見抜き、その中から自分の利益をいかに最大化するかに注がれている。馬鹿ではあそこまで完璧になれない。「ゆとり」は、本当は社会ハックによって自己利益を得られるほど賢いのだ。にもかかわらず正しく動機付けされていないため、ああいう一見馬鹿げた行動を取る。あれはゆとり教育の産物ではなく、学歴ハックによってもたらされた低い人間性世代じゃないかと思うのだ。
話を戻そう。グレアムはその「受験ハック」対策として、2つの方法を提案している。
全く個人的な意見であるが、ゆとり教育こそ、実際には無惨にも失敗しているが、この後者を目指したものであったのだ、と思っている。ゆとり教育の最大の欠点は、子供のためには学歴ハックをもいとわない親たちの性根をたたきのめすほど強くはなかった。と言うことなのである。その覚悟がなければ、今後も同様の政策は失敗するだろう。
ちょっと「ゆとり」に脱線しすぎているので話を戻そう。グレアムが描く実力重視社会は、彼が支援するベンチャー的なものである。つまり、規模が小さければより実力を判断しやすいというものだ。全体の見通しを正しく得ることが、がごく一部の超有能な個人/小集団にしか出来ないような大組織では、学歴のようなわかりやすい指標を持たなければとても無理である。ところが小組織ではそうでもない。せいぜい数十人であればそれほど難しくもないのだ。
グレアムはこの「ベンチャー向き実力主義」を「世襲」「学歴」に続く新しい時代だと評している。ただ、個人的にはこれをそう結論するには2つのパラメータがかけているのではなかろうか
前者については、ベンチャーによるアメリカ企業の反映が空前の好景気に支えられており、なおかつそれが崩壊の危機に瀕していることにある。もしこの実力主義がアメリカ経済とともに崩壊すれば、それは単にきわめて良くある「好景気によって存在しうる贅沢な制度」の一つであったことに過ぎないことにある。むろん、グレアムは彼の経験に基づき、それを肯定しているのはよく分かっている。L.starのような一匹狼的気質のハッカーにとって、彼が提示するベンチャー的企業がどれだけ魅力的なことか。
後者については、前回の
巨大になりすぎた自動車業界が死につつある - 処方箋はスリム化の推進
にもつながる。巨大化した組織が連携して動くことはかつてとても重要なことであったが、それが重要であると認識されればされるほど組織化が進み、それが行きすぎると今度は小規模の小回りの良さが良くなってくるように世界は循環する。むろん、個人的には「より高度な組織化によるさらなる大帝国としての統合」という崇高な使命が実現すればいいのに、と思わなくもない。それは間違いなく今後人類がさらに生き延びて発展するための最大の武器になるのだ。しかし残念ながら、それを行うことのできる偉人は、今の所世界に登場しそうにない。となるとやはり、金融帝国パクス・アメリカーナやジャバニーズ・ビッグカンパニーは今崩壊し、より小規模な組織に移行するのか。
また、実力主義社会においてもハックは存在しうる。現状の欧米式エグゼクティブの超巨額報酬など、「実力のハック」の最たるものではないか。結局「評価ハック社会」になるのが避けられないのであれば、これは新しい形式でも何でもなく、単なる社会的ハックに対するパッチの一つに過ぎない。
不況になったからと言ってみんな負けるわけではなく、当然「勝てる」グループも存在するわけだ。自分が「勝ち」たいなら、そのトレンドを読み損ねないように気をつけないといけない。少なくともIT業界において、数万人月の大規模開発より、十人程度の小規模精鋭開発のほうが圧倒的に効率が良いことはほとんどのエンジニアが同意することだと思う。しかしにもかかわらず今まで大規模開発が優勢であったのにも当然理由がある。だから問題は「いつそれが逆転するか」である。そのときに正しい側にいることがチャンスになる。
ポール・グレアムは、多くのハッカーに影響を与えられる素晴らしい文章を書いている。L.starも例外ではなく、彼の文章が翻訳されるのをとても楽しみにしている。翻訳をしていただいている方々に感謝したい。
それはさておき本題である。グレアムはまず「子供に学歴を取らせるためにどのような手段もいとわない人」に対して何らかの手を打つべきだ、と言っている。
L.starも「学歴社会は絶対悪」と思ったことはない。しかし「学歴社会に最適化した行動を取る」ということは、とてもとても恥ずべきことだと思っている。それは事実上公認であろうが無かろうがチートである。そして、この種のチートを平然と行って罪悪感をいっさい持たない人間の多さに辟易している。
原則論として、学歴社会において学歴を測るのは、人間性を計測する一指標として測るのである。本来計測すべきは人間性であり、学歴ではない。グレアムの言う「学歴のハック」というものがどのようなものか見ればいい。まさに教育ママが狂喜乱舞している様と同じではないか。
そして、このような「学歴ハック」で出てきた子供がどのような行動を取り、社会にどのような弊害を与えるか? L.starはそれを「ゆとり」に見ている。いわゆるここ数年問題になってネットで揶揄されている「ゆとり」連中は、Wikipediaもまとめられているが、ゆとり教育を全面的に受けた世代ではない。彼らはこれから就職に面する。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%86%E3%81%A8%E3%82%8A%E4%B8%96%E4%BB%A3
それどころが、ゆとり教育直前の、むしろ受験の荒波にもまれた世代である。彼らが厳しい進学競争から一体何を学んだのか、と言う話である。
L.starは直接そういう世代と仕事をする機会が得られなかった。が、聞くところを総合すると、彼らの動く様は、巧妙に社会の弱点を見抜き、その中から自分の利益をいかに最大化するかに注がれている。馬鹿ではあそこまで完璧になれない。「ゆとり」は、本当は社会ハックによって自己利益を得られるほど賢いのだ。にもかかわらず正しく動機付けされていないため、ああいう一見馬鹿げた行動を取る。あれはゆとり教育の産物ではなく、学歴ハックによってもたらされた低い人間性世代じゃないかと思うのだ。
話を戻そう。グレアムはその「受験ハック」対策として、2つの方法を提案している。
- 学歴ハックに利用できる「穴」をふさぐ
- 学歴重視社会から、より実力重視社会に移る。
全く個人的な意見であるが、ゆとり教育こそ、実際には無惨にも失敗しているが、この後者を目指したものであったのだ、と思っている。ゆとり教育の最大の欠点は、子供のためには学歴ハックをもいとわない親たちの性根をたたきのめすほど強くはなかった。と言うことなのである。その覚悟がなければ、今後も同様の政策は失敗するだろう。
ちょっと「ゆとり」に脱線しすぎているので話を戻そう。グレアムが描く実力重視社会は、彼が支援するベンチャー的なものである。つまり、規模が小さければより実力を判断しやすいというものだ。全体の見通しを正しく得ることが、がごく一部の超有能な個人/小集団にしか出来ないような大組織では、学歴のようなわかりやすい指標を持たなければとても無理である。ところが小組織ではそうでもない。せいぜい数十人であればそれほど難しくもないのだ。
グレアムはこの「ベンチャー向き実力主義」を「世襲」「学歴」に続く新しい時代だと評している。ただ、個人的にはこれをそう結論するには2つのパラメータがかけているのではなかろうか
- 誰が実力に見合った報酬を払うのか
- これは、単なる大規模-小規模の循環的な戦いの一環であり、最終的な解決策ではないのではないか
前者については、ベンチャーによるアメリカ企業の反映が空前の好景気に支えられており、なおかつそれが崩壊の危機に瀕していることにある。もしこの実力主義がアメリカ経済とともに崩壊すれば、それは単にきわめて良くある「好景気によって存在しうる贅沢な制度」の一つであったことに過ぎないことにある。むろん、グレアムは彼の経験に基づき、それを肯定しているのはよく分かっている。L.starのような一匹狼的気質のハッカーにとって、彼が提示するベンチャー的企業がどれだけ魅力的なことか。
後者については、前回の
巨大になりすぎた自動車業界が死につつある - 処方箋はスリム化の推進
にもつながる。巨大化した組織が連携して動くことはかつてとても重要なことであったが、それが重要であると認識されればされるほど組織化が進み、それが行きすぎると今度は小規模の小回りの良さが良くなってくるように世界は循環する。むろん、個人的には「より高度な組織化によるさらなる大帝国としての統合」という崇高な使命が実現すればいいのに、と思わなくもない。それは間違いなく今後人類がさらに生き延びて発展するための最大の武器になるのだ。しかし残念ながら、それを行うことのできる偉人は、今の所世界に登場しそうにない。となるとやはり、金融帝国パクス・アメリカーナやジャバニーズ・ビッグカンパニーは今崩壊し、より小規模な組織に移行するのか。
また、実力主義社会においてもハックは存在しうる。現状の欧米式エグゼクティブの超巨額報酬など、「実力のハック」の最たるものではないか。結局「評価ハック社会」になるのが避けられないのであれば、これは新しい形式でも何でもなく、単なる社会的ハックに対するパッチの一つに過ぎない。
不況になったからと言ってみんな負けるわけではなく、当然「勝てる」グループも存在するわけだ。自分が「勝ち」たいなら、そのトレンドを読み損ねないように気をつけないといけない。少なくともIT業界において、数万人月の大規模開発より、十人程度の小規模精鋭開発のほうが圧倒的に効率が良いことはほとんどのエンジニアが同意することだと思う。しかしにもかかわらず今まで大規模開発が優勢であったのにも当然理由がある。だから問題は「いつそれが逆転するか」である。そのときに正しい側にいることがチャンスになる。
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