日本から伝え聞く話によると、日本では「オランダに倣え」と言われている政策がいくつかある。

  • ・ワークシェアリングなどの労働制度
  • ・移民政策と外国人参政権
  • ・大麻の合法化などを含む薬物政策

確かに、今の日本は特に若者が雇用に問題を抱え、今後の成長を見越すと労働力の見通しは悪い。オランダではワークシェアリングにより広く雇用が維持され、手厚い保険制度でゆっくり生きることも出来る。オランダ人がオランダで死ぬまで残業させられるようなことは滅多にない。そういった社会制度を維持する上でその開放的な国民性は非常に重要な特性であり、自らユニークな政策を行うことで先進的な地位を築いている。まさに不況に苦しむ日本が師と仰ぐべき、全くいいことづくめの国ではないか?と問いたくなる。

しかし、タイトルにもあるとおりL.starはあえて言う、真似てはいけない。

なぜか?シンプルに言うと、これらのデメリットの多くが別の要因によって隠されているからだ。その要因とは「好況」である。オランダは未曾有の好景気にあった。これらの「独創的な施策」のデメリットを覆い隠し、メリットを強化してあまりある好景気だったのだ。

L.starがオランダにやってきたのは去年だが、思ったのは「オランダ人は質素と言う。でもその割に贅沢だし、ずいぶん羽振りが良いな」と言うことだ。頻繁なバカンス。少ない労働時間。そしておよそ贅沢な行動(とはいえ、やはり本質はケチであるが)に似つかわしくない安い給料。スペインやベルギーで買いあさられているという別荘たちや、そこかしこにある新興住宅地。そういうファクターが聞こえてきて余計混乱したものだ。そのうわっついた違和感は暫くして、オランダの不動産事情の全貌が聞こえてきて納得した。当時のオランダ経済は「バブル」そのものなのだ。

そして、暫くしてサブプライムが見えてきたのと前後して、売り物件があきらかに増えだした。最近では特に売りの中でも競売にかけられる物件が増えているという。何のことはない、「金持ち父さん」が推奨するような、家を買ってはそれを元手にローンを組むような連中が多かったということだ。今オランダではバブルが崩壊している。今までの手厚い福祉保障はこれからも受けられるのか?というのは分からないが、逆に言うとバブルだから劣悪な給与環境でも今まで支えられたということではないのか。

他の政策にも目を向けよう。移民政策についてはオランダは日本に負けず劣らず問題を抱えている。主な問題相手はイスラム系の出稼ぎの人たちだ。日本よりずっと開明的な国であるからそういうのも受け入れてきたのだ。しかし、日本で在日朝鮮人と日本人が抱えるような問題がオランダでも解決できていないように見える。民族的な微妙な面があるので、あえて詳細は書かないことにするが、この種の問題は今でもくすぶっている。そして、好況なうちはいいが、不況になって縮小していく中で、日本と同じように大問題になるだろう。

薬物政策についてはもはやまともに日本で理解されているかどうかすら怪しい。L.starも聞きかじった程度にしか知らないが、そもそもオランダは大麻が合法ですらない。パーキングエリアで金を払っておけば駐車禁止にならないように、特定の行為が非刑罰化されているだけである。制限は非常に厳しい。コーヒーショップは存在だけでも迷惑がられることがしばしばである。そして薬物政策が隣国との整合性がないため、国境付近のショップがあるエリアは外交問題にまで発展しかねないことがある。

そもそも、日本に大麻インフラを導入するに当たってやるべきことはあまりにも多すぎる。政策だけでも取り締まりや教育面といった部分で大きな変更を迫られるだけではない。その生産から流通までの一貫した統制が必要になる。生育の簡単な大麻は非常に簡単にヤミ流通し、問題のある組織の資金源になるだろう。オランダはこれらの問題を何一つ完全には解決できていない。

しかし誤解の無いように言うと、それでも挑戦するのがオランダという先進的国家の良いところであるのだ。日本には同じように世界の先頭に立つ覚悟があるのか?あるというのなら、こんなつまらないものではなく、今世界がまさに目にしている金融問題とか、そういうところにその勇気は使われるべきじゃないか。

まあ色々書いてきたが、そういうわけでL.starがオランダを真似るなと言うのは、オランダの政策がよく見えるのは好景気が強く影響しており、本当の問題が見えるのは不況が始まるこれからだから、ということなのだ。

好景気が制度の欠点を覆い隠してよく見えた例は、日本人ならよく知っている年功序列制度がそうだ。あのバブルの時、欧米企業はこぞって日本の年功序列制度から何かを倣おうとしたのではなかったか。年功序列制度の問題点は、バブル崩壊があっさり証明してしまった。日本人はバブル崩壊にいろんなことを学んだと言うが、欧米人も間違いなく日本のバブル崩壊に色々学んでいるのだ。