某所で「オランダでは新生児の50%はイスラム教徒らしいね」という話をされた。しかし、最近ベビーカー選びのために新生児の乗ったベビーカーをかなり見ていたが、どう考えてもイスラム教徒とおぼしき人たちはそんなに多くない。ぐぐってみると2chソースっぽいのばかりで、だいたいは今年に入ってから。
もうその時点で「オランダが*外国人参政権導入により*ひどいことになっている」というのはガセとか書いたL.star的にはデマだと想像できるが、オランダという単語が入っているわけだし、果たして本当にそうだろうか調べてみた。結論から言うと、表題の通りデマ確定だった。
とりあえずgoogleで一番上にあった
欧米諸国の末路
から引用してみよう。
100年以内に欧米のキリスト文化はイスラム文化に取って変わられるとされる
・フランスの場合
フランスの出生率は1.8人。
イスラム教徒の出生率は、8.1人(!!!!!!!!)。
2027年、フランス人の5人に一人はイスラム教徒に。
39年後(2048年)、フランスはイスラム国家になる。
(要するに過半数がイスラム教徒になるということでしょう。)
・イギリスの場合
イスラム教徒の数はここ30年で、8万2000人から250万人まで30倍増加。
新生児の最も多い名前が「モハメッド」くん
・オランダの場合
新生児の50%(!)はイスラム教徒。15年後、オランダはイスラム国家になる。
・ベルギー
人口の25%はイスラム教徒。新生児の50%はイスラム教徒。
・ドイツ
2050年にイスラム国家に。
ドイツ政府によると、現在欧州には5200万人のイスラム教徒がいる。
それが20年後には、1億400万人まで増加する。
・アメリカ
1970年、アメリカのイスラム教徒はわずか10万人。
それが2008年には900万人(!)まで増加。
30年後、イスラム教徒の数は5000万人まで増える。
出生率8.1とかどう考えてもデマっぽい。ソースは全く見あたらないが、どうやら元ネタは以下のyoutubeっぽい。
Muslim Demographics
しかし最初に見つかったのは実はこいつよりこいつを検証したサイトである。検証の手間が省けてとってもありがたい。
Muslim Demographics - fact vs. fiction
Muslim Demographics
下の方がずいぶん詳しく検証されているので、参考にしてみよう。なお、どちらも書かれたのは2009年なので、もう1年以上前の話である。2年前に海外で否定されたデマが今になって2chではやっていることになる。
フランスのイスラム人出生率のデータはないそうだが、オランダの場合ムスリム率は約5%、人口は2000万弱だから。100万人弱である。これとオランダの出生率1.66と言う数字から計算するに、新生児の半分がムスリムであるためには、在オランダイスラム人の出生率は26.0にもなる。もはや到底出生率には見えない。
それにそんなに高いのなら、一度ぐらいは10人ぐらいイスラム人の子どもを連れた夫婦を見たことがあるはずだろうが、見たことはない。あるいは統計のトリックでそうなるかもしれないが、そうなるには殆どのムスリム世帯がここ数年以内に何人も子供を産んだ、と言う異常な状況でもない限りあり得ない。
まあ特定区域の、というとそういう地域がある可能性はある。しかし大阪市生野区の例を持って「日本は」と言ってしまうのは完璧な間違いである。
ついでだから他の部分もみていこう。原文の方にソースは示してあるので、必要と思う方はそちらを参照されたし。
・フランス
ムスリム在フランスムスリムの出生率が平均以上なのはそうかもしれないとしつつ、主な移民元の国の出生率はモロッコ 2.57、アルジェリア 1.82、チュニジア1.73そしてトルコ1.87と決して飛び抜けて高いわけではない。移民になっただけで3-5倍になるというのは常軌を逸している。このソースを無邪気に信じるなら、日本人も移民をしたら一気に出生率5を越えたりしないだろうか。
2027年云々については検証されていないが、出生率8.1と出所が同じであり、信頼に値する他の情報源も見あたらない。調べたところこのソースはhttp://www.tldm.org/tldmstore/GlobalJihad.htmにあり、$5.00で売られていた。これの検証というネタのためにわざわざ払う気にはなれない額であるので、このソースが信用できると思う人が是非調べていただきたい。
・イギリス
この数字はおおむね正しいようだが、ただしUKの人口は5000万で、250万/6000万=4.2%。なお国勢調査によるとイスラム教徒は2001年の数字で2.7%であり、若干の乖離はある。多めにしてある可能性はある。
「ムハンマド」のくだりについてもいつか聞いたことがあるが、まともなソースは見たことがない。おそらくごく一部のムスリムが密集している地区ではそういうこともあり得るだろう。だいたい移民は労働力が必要とされる都市あるいは工業地帯に住むのが大半なので、こういう乖離は起こりえる。
これを日本に置き換えると「日本で一番多い名字は金(キム)。ソースは新大久保での調査結果」とでも言うべきだろう。
・ベルギー
、国連本部もある国際都市ブリュッセルは飛び抜けてムスリム率が高く25.5%とか。つまり25%と言う数字はブリュッセルだけなら正しいが、ベルギー全体の数字ではない。またも特定地域を国にすり替えるトリック。出生率についてもオランダと同じで以下略。
・ドイツ
ドイツ政府によると~の下りはもはやドイツの話じゃない!というのはさておき、「2050年にはイスラム国家になる」というのは元々「2050年にはドイツがムスリムの州になっちゃう方向に確定するだろうね」を切り取った結果で、しかも元ビデオのソースは政府部局だといっているが、「とある右翼系団体がそういった」の引用。
現在欧州に居るイスラムの数字は嘘。今のところ1960万人。で、EU全体で5億、4%。本当に5200万人いるとすれば10%を越え、他国の統計結果と完全に矛盾する。
・アメリカ
2008年のムスリムの数ははっきりしていないようだが最大でも800万人と、900万という数字も誇張のようである。30年で5000万人まで増えると書いてあるが、原文は「30年後に5000万人まで増えることに備えないといけない」という警告である。日本語訳版の場合は警告じゃなくて予測にされているわけだから、そもそも「増える」としたソースそのものがない。それですら「そんなのありえねーよ」と一蹴されている。まあ単なる警告だから仕方がない。
というわけで、この文章ほとんど正しいところのないデマと断定して差し支えないだろう。まあ欧州のムスリム率がおおよそ4-5%だということを知っていれば、ほとんど否定できる。
こんな文章を拡散するのはすなわち他国に対するデマを振りまいているわけで、失礼この上ない。「日本は原発事故で完全に核汚染された」だの「この地震は石原都知事の命令による核実験だ」などとレベルの変わらない内容。これらの国の方々からも今回の震災で多大な援助を受けたわけだが、その好意に泥を塗るつもりなのだろうか。本当に情けない。
もちろん移民問題は複雑で簡単に結論のでない難しい問題なのだが、論じるならこんな嘘っぱちではなくもっとまともな数字で論じるべきだろう。